社内貸付金は退職金から控除できる?

今般、社内貸付金がある従業員が退職することになりましたが、「社内貸付金の残債務を退職金から控除できるか。また,会社共済会の貸付金残債務についても退職金から控除できるか」について異論が出ましたが、法的にはどのように考えればよいのでしょうか?
社員宛貸付を行う際に,融資契約書に、①期限の利益喪失約款 があり, ②退職金から控除して弁済する旨の規定もあって(通常は期限の 利益喪失約款,及び退職時一括弁済の特約がある),さらに, ③賃金控除の労使協定がある(退職金から社内融資の残債務を 控除するには労基法の賃金支払原則の例外としての労使協定 が必要)といった,3つの要件を満たす場合には,退職金から 社内融資の残債務を控除することは可能と考えられています。 また,賃金控除協定がない場合でも,最高裁判決の中には 「・・・・労働者がその自由な意思に基づき相殺に同意した場合 においては,同意が労働者の自由な意思に基づいてされたもの であると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときは, 同意を得てした相殺は労基法に違反するものとはいえない」 (日新製鋼事件最2小判平2.11.26)として,労働者がその自由な 意思に基づいて退職金債権との相殺に同意した場合には 労基法24条に違反しないとしたものもありますが, 注意しなければいけないのは,その同意については労働者の 自由な意思に基づいてなされたものであると認めるに足りる 合理的な理由が客観的に存在することが必要だとされて いる点です。
そこで,実務的には賃金控除協定を定めておくことが
極めて大切です。
会社共済会からの貸付金の場合も上記①から③までの
要件を満たすことが必要ですが,さらに,会社が共済会
から従業員に対する債権の取立委託を受けていて,
且つ従業員からも共済会に対する債務についての
支払委託を受けていれば,退職金から共済会に対する
残債務を控除して共済会に交付することができます。
法律的には,従業員から支払委託を受けていれば,
受任者である会社は民法649条(委任された事務処理
費用の前払請求権)により費用前払請求権を持つこと
になりますので,その請求権と退職金請求権を相殺
することになると説明できるようです。

2014年9月27日)