派遣労働者への残業命令は派遣先?

当社は派遣労働者を受け入れていますが、仕事が忙しいため派遣労働者に残業をさせたところ、その派遣社員から“残業時間が協定で定める時間を超えているので,違法ではないか”と指摘されてしまいました。本当に違法なのでしょうか?
労基法32条において,労働時間に関する規制を守らなければ ならない義務を負担するのは,使用者です。 そして,派遣先と派遣労働者との間には,労働契約は締結 されていません。従って、派遣先は,派遣労働者との関係では 使用者に該当しないことが原則となります。 そのため,労基法の労働者保護法規を遵守する義務を 負担するのは,派遣労働者と労働契約を締結している派遣元 であることになります。
 しかし,派遣中の労働者に対して指揮命令を行うのは,
派遣元ではなく,派遣先です。このような状況において,
派遣労働者保護の実効を確保するためには,派遣先に
責任を負わせることが適当な事項については,派遣先に
労基法上の責任を負担させることが必要です。
そこで,労基法等の特例規定が労働者派遣法に
定められています。
 まず,派遣中の派遣労働者の派遣就業に関しては,
派遣先の事業のみが派遣中の労働者を使用する事業と
みなされて,労基法32条が適用されることになり
(労働者派遣法44条2項)、派遣先のみが,労基法32条の
使用者に該当することになります(労基法32条違反の
刑事責任も派遣先のみが問われることになります)。
 したがって,派遣先は,派遣労働者についても労基法32条
の制限を遵守する必要があります。
 他方,労基法32条で定める法定労働時間を超えて就労
させる場合には,労基法36条で定める協定が締結されて
いる必要がありますが,この三六協定については,派遣元
において締結しなければなりません(労働者派遣法44条2項)。
 そのため,派遣先は,派遣元で締結されている三六協定の
限度時間の範囲内で残業等を命令することができ,
これに違反した場合には,派遣先は労基法32条違反の
責任が生ずることになります。
 労働者派遣契約においては、法により時間外労働の限度時間
が定めなければならないことになっているので(労働者派遣法
26条1項10号,同法施行規則2号),派遣先は労働者派遣契約
の定めを確認し、そこで定める時間外労働の限度時間範囲内
で派遣労働者に指揮命令を行う必要があることになります。

2014年9月27日)