「労働時間」の役員の責任

①過労死の責任を問う全国初の「株主代表訴訟」が提起
銀行の行員だった男性が過労からうつ病を発症し、投身
自殺をした事件で、男性の妻が銀行を訴え、熊本地裁は、
銀行が注意義務を怠り、行過ぎた長時間労働をさせたと
認定し、慰謝料など1億2,886万円の支払いを命じました
(2014年10月)。
同事件では、労基準監督署が発症直前の時間外労働
時間が207時間に及んでいたと認定していました。
そして今年9月、この妻が、銀行の株主としての立場で、
当時の役員ら11人に対し、過労死を防ぐ体制づくりを怠り
銀行に損害を与えたとして、約2億6,400万円の損害金の
支払いを求める株主代表訴訟を
提起しました。
②株主代表訴訟で追及される役員の責任とは?
役員は、会社に対し忠実義務を負っており
(会社法355条等)、
違反すると任務懈怠責任(会社法423条1項)を
負います。
株主代表訴訟では、役員の任務懈怠により会社が
損害を被ったとして責任追及がなされますが、過労死
や過労自殺について任務懈怠責任を問う株主代表訴訟
は初めてとのことです。
③過労死・過労自殺で役員個人の責任を認めるケースが
相次ぐ
従業員の過労自殺について役員個人の責任を認めた事件
として有名なのが、2011年5月の大庄(日本海庄や)事件に
おける大阪高裁判決です。同事件は、役員の第三者に
対する損害賠償責任を定める会社法429条1項の規定が、
過労死・過労自殺の事案でも適用されることを明らかに
しました。
2015年12月に和解が成立したワタミ過労自殺訴訟でも、
原告側によれば、和解条項で、創業者について「最も
重大な損害賠償責任を負う」ことを確認したとされて
います。
経営者による長時間労働の放置は、厳しい責任追及の
対象となり得ると言えるでしょう。
 NTTデータ経営研究所/ NTTコムオンライン・マーケ
ティング・ソリューションの調査によると、長時間労働の
抑制に取り組む企業の割合が2015年の「22.2%」から
2016年の「32.1%」に増加し、既に多くの経営者が長時間
労働の是正に向けて動き出しています。
所定外労働時間の削減や有給休暇の取得促進に取り組む
中小企業事業主は、厚生労働省の職場意識改善助成金
(職場環境改善コース)を受給できる場合がありますので、
利用を検討してみてはいかがでしょうか。

(2016年10月27日)