年俸制を巡る問題 その2

(3)割増賃金の支払い ところで、年俸制がとられると、支払われる賃金は年俸額のみで、時間外割増賃金は支払われないといったイメージがあるようですが、年俸制をとったからといって、直ちに労基法上の割増賃金の規制(労働基準法上、時間外労働や休日労働にはその量に応じた割増賃金を支払うべきものとされています)が外れるわけではありません。
 労基法の”管理監督者”に該当する場合にはそもそも労働時間の規制が適用除外となりますし、”裁量労働や事業場外労働”についての「みなし時間制」が適用される場合には、「みなし」により処理される労働時間が1日8時間を超えない限りは、割増賃金は不要となりますが、それ以外の場合、割増賃金の支払いは必要です(賞与部分を含めて金額が確定している年俸制の場合は、一時金の形をとる部分についても算定基礎からの除外はされず、確定した年俸額全額を割増賃金算定の基礎とする必要が生じえます)。
 成果主義人事の実現方法として「裁量労働制」が議論される背景には、こうした事情もあるといえます。もっとも、割増賃金の支払が必要となり得る一般の従業員について年俸制を採用する場合には、割増賃金をとりあえず固定額で支払うという方法もあります。すなわち、従来の平均的な実績などによって計算した一定額の残業手当を支払うことにして年俸額を算定する方法です。このような割増賃金の支払方法は必ずしも違法ではありませんが、実際の労働時間によって計算した割増賃金の額が固定額による残業手当を上回る場合には、差額を支払う必要があります。
 また、このような扱いをする場合には、通常の労働時間に対応する賃金と、割増賃金に相当する賃金とが区別できるようになっている必要もあります。
(2005年1月)