積立不足と労働債権の順位

 総務省・厚生労働省の調査によると、日本の民間企業の内9割程度の企業が何らかの形で退職金制度を設けていますが、この退職金制度を持つということは、それに見合った給付責任である退職給付債務を負っているということになります。平成15年3月期決算企業1,280社の退職給付債務は、総額で37兆8,600億円にのぼります。これだけで、実に国家予算の半分近い額になります。更にこれに、未集計企業も含めると、日本企業全体では計り知れない額の退職給付債務を背負っていることになります。
 然し、企業が破綻した場合の現行諸法における債権順位を見ると、退職金債権は一般債権並みの保護しか受けていません。つまり、会社に万一のことがあったときの退職金の保全は、決して十分ではないのです。更に、昨今の長引く超低金利を受けた資産運用の低迷から、退職金を準備するための資産の積立は予定通りに進んでいない為、現行の退職金・年金システムは早晩、見直しを迫られるというのが一般的な見方です。そして、その場合は「退職金規程」の変更を伴うことになりますが、それに”労働者に不利益な労働条件の変更が含まれるとき”は、「就業規則の作成または変更の可否に関する判例法理」に基づいて判断されることになります。最高裁の不利益変更に関する法理は、次の通りです。

既に具体的権利として発生している退職金請求権や賃金請求権といったものは、原則として労働者の同意なくしては就業規則の変更によって処分あるいは変更することはできない。
変更された就業規則の条項が合理的である場合には、その後の労働条件については変更に同意しない労働者にも拘束力がある。
「合理性の判断」は総合的に行う。
従業員の大多数を代表する者(組合)の同意があれば、一応、合理的と推認する。 このように退職金問題は、今後日本企業の大きな経営課題として益々クローズアップされて行くと思われますが、そこから更にサラリーマンの老後生活の問題へと波及して行くかもしれません。 (2004年4月)