成果型人事制度

 富士通の成果主義が話題になってから成果主義人事制度は上手くいくのか、定着するのかが議論の的になりました。 然し、それも一段落して今では既に、企業の8割が何らかの成果主義を導入したと云われています。また、最近では総額人件費や業績連動型賞与などがセミナーのテーマに取上げられることが多くなりました。
 成果主義は、企業あるいは部門などの組織目標により大きな貢献をした人材に大きな報酬を集中させようとする人事制度です。組織目標には短期・中期の時間軸があり、定量・定性と視点の違いもあります。これら組織目標が長期に渡って達成され続けるよう検討した上で、適切に個人目標化し、その達成度に応じて社員の処遇にメリハリを付けようという制度が成果主義人事制度であるわけです。言わば、年齢や勤続などの属人的要素によって決まっていた従来の生計給「賃金」から、組織業績への成果・貢献に応じて重点的に配分先を決定する「報酬」への転換を成果主義と定義付けることも出来るでしょう。
 従って成果主義では、それまでなら滅多にあり得なかった支給額の減額や入社年度の前後を越えての処遇の逆転などが発生することになります。そのため、賞与も月例給与も低業績者分を削減してそれを高業績者への支給原資とする社員間の所得移転が社内で発生するという刺激の強い制度であるわけです。 一方、「総額人件費管理」とは、企業業績と人件費総額を適正なバランスに保つ機能のことを云い、そのために賞与総額を業績連動型とする制度の導入が進んでいます。更に一段と進んだ企業では、労働分配率の適正率を算出し、賞与に止まらず総額人件費そのものに歯止めをかける方策を導入し始めています。英米企業などでは労働分配率の調整をあまり精密には行わず、経営者のトップダウンで人件費予算が決められるケースが多いのですが、それが出来にくい日本企業では人件費は聖域との思い込みから企業業績が悪化しても一定の増額を容認してきた歴史があります。
 然し、激しい国際間の生残り競争の中では、企業はもうそうは云っていられなくなったのですから、 むしろ今後は適正労働分配率を見定めることを労使が協調して話し合う仕組みを導入することが欠かせなくなるとも考えられるのではないでしょうか。  以上のように成果主義と総額人件費管理(業績連動)とは別物であることを認識すると自社の成長と目標に合わせた人事戦略を展開することが出来やすくなります。
 企業規模の大小に関わらず企業業績の一定率を総額人件費とし、その総枠を超えないようにしながら、最も成果への貢献度の高い人材に報酬を集中させる人事が企業の成長性と収益性を高めるのに有効・不可欠となるでしょう。これを実現するためには、従来からの年功的な給与体系から事業と職種にあわせた柔軟な給与制度への転換が必要になります。然し、他方では集団性を高め組織で協調し合って共通目標を達成することが重要な組織では逆に相応の年功的体系の維持が必要・有効な場合もあります。
 つまり、人事制度は各社各様のやり方があり、どんな会社にも共通して通用する有効な制度など無いのです。だから、制度の改訂を検討する前に、「自社経営の特徴や組織特質を検討せず、専らの流行や思いつきでの底の浅い制度改革に走ることは却って組織を駄目にするリスクも大である」という当たり前のことを、もう一度思い起こす必要があるということですね。 (05/06)