残業禁止命令中の残業もOK?

「残業禁止命令に違反して行われた残業に対しても割増賃金支払義務はあるのでしょうか?
平成17年3月の東京高裁判決の事案では、労働組合と 会社の間で36協定締結に関する交渉がまとまらない 状態において、会社が従業員に対し、 ①朝礼等の機会および役職者を通じて繰り返し、36協定が 締結されるまでの残業禁止という業務命令を出した上で、 ②残務がある場合には役職者に引き継ぐことを命じ、徹底 していました。 このような状況下において、業務命令に反して行われた残業 について、労働者側が割増賃金の支払いを要求していたのですが、 東京高裁は以下のように判事し、その請求を棄却しました。 「賃金(割増賃金を含む。以下同じ)は労働の対償であるから、 賃金が労働した時間によって算定される場合に、その算定の 対象となる労働時間とは労働者が使用者の指揮命令下にある 時間、または使用者の明示または黙示の指示により業務に 従事する時間であると解すべきものである。 従って、使用者の明示の残業禁止の業務命令に反して労働者が 時間外または深夜にわたり業務を行ったとしても(中略)賃金算定 の対象となる労働時間と解することはできない」。 特に今回の事件では36協定未締結という状況であり、この 残業禁止命令は労働者に時間外労働をさせない法的義務を 履行するためのものであったこと、そして残務がある場合には 役職者に引き継ぐという実務的な対応まで命令し、徹底していた ことが決め手になったと考えられます。 だから、ある意味では、本件は特殊な要素があることは 否めませんが、“労働時間の大原則は使用者からの業務命令 に基づくものであるということ”を確認している点は実務を行う上 においても、重要なポイントとなるでしょう。 時間外労働および休日労働を行う際の申請および許可プロセ スについて、問題がないかを再確認することをお勧めします。 (2021年5月27日)