退職金を減額できる?

当社の給与規程には欠勤時の減額規定があるものの退職金規程には減額規定を設けていません。今般、欠勤が多い社員が自己都合退職したのですが,給与と賞与は規定に従って減額支給したので、同様に退職金についても減額支給しても問題はないでしょうか?
この場合、退職金規程に減額規定がなければ退職金を減額することは できないと解されますので、注意が必要です。 退職金制度は法律上設けることを義務付けられたものではありませんから, 仮に退職金制度がなくても問題になることはありません。 ただし,就業規則などによって,退職金の支給条件などが明確に 定められている場合には,退職金は単なる恩恵的な給付ではなく, 労働基準法上の賃金に該当することになります。従って、会社が、 社員に退職金規程により退職金を支給していれば、退職金も同法上の賃金 に該当することになります。 また、退職金制度に関しては,「退職手当の定めをする場合においては, 適用される労働者の範囲,退職手当の決定,計算及び支払の方法並びに 退職手当の支払の時期に関する事項」を就業規則に記載しなければ ならないと法で定められています。 そして,退職金の不支給または減額事由を設ける場合,これは上記の 「退職手当の決定,計算及び支払の方法」に関する事項に該当しますので, 就業規則に記載しなければなりません。 従って,退職金規程の支給条件を満たす者に対して退職金を支給 しなかったり,減額規定がないにもかかわらず退職金額を減額して 支給したりすることは,賃金の支払いについて定めた同法24条違反 となります。 裁判例(東北ツアーズ協同組合事件,平11.2.23東京地判)でも, 懲戒解雇した者への退職金を不支給としたケースにおいて, 懲戒解雇における退職金の不支給の規定がなく,さらに, そのような場合には退職金を支給しないという事実たる慣習も 成立していなかったとして,退職金の支払いを命じられたものが あります。 同事件では,「懲戒解雇された従業員には退職金を支給しないという 内容の付款を設けるのであれば,そのような内容の付款を予め就業規則 において定めるべきである。」とされています。 然し,退職金規程に不支給・減額条項を定めることは可能なものの, 不支給・減額条項があるからといって,どんな場合でも退職金の 不支給・減額が認められるというわけではありません。 裁判例では,「退職金の全額を失わせるに足りる懲戒解雇の事由とは, 労働者に永年の勤続の功を抹消してしまうほどの不信があったことを 要し,労基法第20条但書の即時解雇の事由より更に厳格に解すべき である」(橋元運輸事件,昭47.4.28名古屋地判), 「退職金の全額を失わせるような懲戒解雇事由とは,労働者の過去の 労働に対する評価を全て抹消してしまう程の著しい不信行為があった 場合でなければならない」(トヨタ工業事件,平6.6.28東京地判) などとされているからです。 尚,退職金の減額については,一部は退職金が支給されることから, 全額不支給の場合ほどの事由は求められず,その行為の程度と減額の 程度から判断されることになります。 いずれにせよ,退職金規程に減額規定がなければ,退職金を減額して 支払うことはできません。 なお,退職金の計算方法は労使間で自由に決定することができますから, 例えば,退職金規程の定めにおいて,在職中の出勤率等によって 退職金額の支給率などに差を設けることは問題ありません。

(2013年8月2日)