通勤手当の不正受給は返して貰える?

当社の社員で、事前に「電車で通勤する」と届け出た者が、会社に偽って「自転車で通勤」していることが判明しました。この場合、会社は、その社員に支給した通勤手当の返還を求めることはできるのでしょうか?
通勤手当は通勤にかかる費用を、会社が現金または定期券などの現物で 社員に支給する制度です。本来通勤にかかる費用は労働者が負担すべき ものですが、社員の福利厚生の一環として住所や通勤経路の届出を求めた うえで、合理的な経路による費用を賃金の一部として貴社のように支給する 会社は、非常に多いのが実態です。
通勤手当は賃金なので、通勤に使ったかどうかにかかわらず受け取ることが
できるとの見方もありますが、実際にかかる費用を支給する仕組みなので、
使っていないならば返還しなくてはならないとの見方が大勢です。
本来払わなくてもよい通勤手当を払うことになれば、
「会社に経済的損害を与えてはならない」という労働契約上の信義則に
違反します。また、自転車通勤なのにあたかも電車などを利用しているように
装えば、通勤経路の虚偽申告になります。

本件のように会社が社員の不正な行為により過払いとなった賃金の返還請求
をする場合は、民法上の不当利得返還請求権に基づいて行うことになります。
したがって、労基法上では賃金の支払い請求権は2年(退職金5年)で
消滅しますが、民法上の時効に従うこととなり、過去10年以内の不正受給分
までさかのぼって返還請求することができることになります。
加えて懲戒処分として、賃金の減給処分をすることが考えられますし、
また、降格、出勤停止などの処分をする事も考えられます。

通勤手当の不正受給は会社の処分の対象になるだけではありません。
万が一、届出と違う経路での通勤途上に交通事故に遭遇した場合、
労災保険上の通勤災害として認められない可能性もあります。
それは、通勤災害による給付の対象が合理的経路の途上での事故などに
限定されており、届出と違う経路での通勤が、合理的経路であったとは
みなされない可能性があるからです。